
同じ資産1億円の会社でも、
清算のやり方で手取りが1,500万円変わります。
——役員退職金を「使い倒す」設計術。
OISC飯塚税務会計事務所(東京都練馬区)|資産税専門の税理士・公認会計士
「会社を畳んで、社長個人にお金を戻すだけ」——そう思っていませんか? 実は、この“戻し方”ひとつで、社長の手取り額は数百万〜数千万円単位で変わります。カギを握るのは「役員退職金」と「みなし配当」の税率差。ここを設計せずに清算に入ってしまう会社が、実務では驚くほど多いのが現実です。
この記事の結論
清算で会社のお金を個人に戻す方法は2つ——①解散前に役員退職金として支給/②残余財産の分配(みなし配当)。前者の税率は実効10〜20%前後、後者は最大約50%。同じ金額を戻すのに、税負担が2〜3倍違ってきます。順番を間違えないだけで、手取りは大きく変わります。
1. なぜ「役員退職金」がそんなに強いのか?
役員退職金は、日本の税制で最も優遇されている所得のひとつです。理由は3つの優遇が同時に効くから。
| 優遇項目 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 退職所得控除 | 勤続年数に応じた大きな控除枠 | 30年勤続なら1,500万円が非課税 |
| 1/2課税 | 控除後の金額に½を掛けてから税率適用 | 実効税率が半分近くに |
| 分離課税 | 給与や配当と合算せず単独計算 | 累進税率の跳ね上がりを回避 |
結果として、退職金の実効税率は10〜20%台に収まるケースが多く、これに対して残余財産分配(後述のみなし配当)は最大約50%までいきます。ここに「使い倒す」余地があるわけです。
2. 「残余財産分配(みなし配当)」の重い税負担
会社清算で株主に分配されるお金のうち、資本金等を超える部分は税務上「配当」とみなされ、社長個人の総合課税の配当所得として課税されます。給与や年金と合算されるため、累進税率が跳ね上がりやすい構造です。
⚠ 何もせず解散すると、この「重い方」の課税が丸ごと来ます
解散前に退職金を出さないまま清算に入ると、会社の残余財産すべてが「みなし配当」として課税されます。退職金を先に出しておけば、その分だけ残余財産が減り、みなし配当も減る——という単純な理屈です。順番を間違えるだけで、社長の手元に残るお金は2〜3割変わってきます。
3. 実例:資産1億円の会社を、どう畳むか
【対策なし:解散して全額を残余財産分配した場合】
みなし配当:1億円 − 資本金等1,000万円 = 9,000万円
→ 総合課税で最高税率帯にのり、税金約4,500万円/手取り約5,500万円。
【退職金設計あり:解散前に退職金5,000万円を支給した場合】
① 退職所得控除:800万 + 70万×10年 = 1,500万円
② 課税退職所得:(5,000万 − 1,500万)× ½ = 1,750万円
③ 所得税+住民税:約550万円/退職金の手取り約4,450万円
残余財産分配は5,000万円(うちみなし配当4,000万円)
④ みなし配当の税金:約1,450万円/分配の手取り約3,550万円
合計手取り:約8,000万円(節税効果約1,500〜2,500万円)
※実効税率は個々の所得・自治体・控除により変動します。上記は理解のためのイメージであり、実額をお約束するものではありません。
POINT 退職金は「解散前」に出すのが原則
解散決議後の役員退職金は、税務上の合理性を問われるリスクがあります。「退任 → 退職金支給 → 解散決議 → 清算」という順番で組むのが基本設計。同じ額を出しても、順番だけで税務署の目線がまったく変わります。
4. 退職金の「上限」を決める——功績倍率法
退職金は青天井ではありません。過大退職金と認定されると法人税で経費否認 → 個人でも役員賞与課税のダブルパンチになります。実務で広く使われる目安が「功績倍率法」。
例)月額報酬80万円 × 勤続30年 × 3.0 = 適正退職金7,200万円
⚠ 「最終報酬月額」を清算直前だけ上げるのは危険
退職金を大きくしたいがために、退任直前だけ役員報酬を跳ね上げる——これは典型的な否認パターンです。税務署は「不相当に高額な部分」として否認する権限を持っており、遡って役員報酬の変更経緯まで見られます。報酬設計は数年前から段階的にが鉄則です。
5. こんな社長は、いますぐ相談を
- 2〜3年以内の引退を考えているが、役員退職金の準備をしていない
- 会社に純資産が5,000万円以上残っている
- 「解散したら、あとは税理士がやってくれる」と思っている
- 役員報酬を、なんとなく毎年同じ額で払い続けている
- すでに解散決議をしたが、退職金はまだ支給していない
まとめ
清算時の手取り最大化は、「退職金 → 残余財産分配」の順番と金額設計が9割です。ゼロから対策するより、解散2〜3年前から報酬設計を含めて準備を始めるのがベスト。会社の資産規模がある程度大きい方ほど、効果金額は大きくなります。「せっかく貯めた会社の資産を、なぜ半分も税金で持っていかれるのか」——そう感じたら、それはまだ設計の余地があるサインです。
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※本記事は債務超過に陥っていない会社の私的整理(黒字清算)を前提とした一般的な情報提供です。記載の税率・金額例・功績倍率はいずれも一例であり、個別の適用は勤続年数・報酬水準・会社規模・自治体・適用時点の税法により異なります。特に功績倍率および過大退職金の判定は事案ごとに実質判断されます。具体的なご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。本記事の利用により生じたいかなる損害についても、当事務所は責任を負いかねます。